トヨタ iQ。 この世紀のニューコンセプトカーが世に送り出されたのは平成20(2008)年のことであった。
えっ、これで4人乗り?
過去の常識を打ち破る「マイクロプレミアムカー」、それがiQのアイデンティティだ。

全長はたった3000mm! 軽自動車の規格(3400mm)よりもさらに40cmも短い。

欧州ではスマートFortwoをはじめ、Aセグメントの中でも超小型モデルも多くリリースされ、人気も高いのだが、
法制度の関係で日本では軽自動車の独壇場であり、普通車枠となるとそれなりの大きさとなるのが普通だ。
iQは軽自動車よりもさらにコンパクトでありながら、走行性能、安全性能は普通車レベルを保ったままでなお
4人乗車を可能とするために、トヨタの持てるコンパクト化技術の粋を極めたオンリーワンのスペシャルカーだ。

そのかわり車幅は5ナンバー枠ほぼいっぱいの1680mm。
正面からのビューはワイド感のあるいっぱしの乗用車のようだが、たいていは横に回ってアッと驚くことになる。
だがトレッド幅1475mm、ホイールベース2000mmという比率のワイド&ショートなレイアウトになっていることから
直進時、旋回時とも走行安定性は極めて高く、さらに最小回転半径3.9mという驚異的な取り回しを実現している。
これは2車線分あれば一発でUターンできるということで、まさにマイクロコンパクトの本領発揮というところだ。

わが家にやってきたiQは、2012型の130Gレザーパッケージ。
車体色はディープアメジストマイカメタリックだ。
初期のiQは3気筒996ccの1KR-FEエンジンのみであったが、翌2009年からは4気筒1329ccの1NR-FE型を搭載したハイパワー版の130シリーズがお目見えした。

グレードとしてはスタンダードの“X”、ラグシュアリーな“G”、さらに本革内装等を追加する“Leather Package”が用意された。
Gではフォグランプ付きの専用エアロバンパーやリアディフューザー等に変更されるほか、レザーパッケージではタイヤも175/60R16となり専用アイミホイールがセットされるなど「走り」に指向した上位グレードに設定されている。

なお車体四隅の4Dカーボンシート(シルバーグレー)や側面のチェッカーフラッグステッカーはDIYでドレスアップしたものだ。

ナンバープレートも“19”、アイ・キューだぞ!

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ヘッドライトはHi/Lo共用のBi-beam方式の大径一眼プロジェクター。光源はハロゲン球であるが、ランプユニット後方に余裕がないため側方からバルブを差しこむ「HIR2特殊」というiQのためだけの規格となっており、バルブ交換やLEDランプへの変更にはちょっとした知識と技術を要する。
今回は国内唯一、iQに適合確認されたLEDバルブとなる“TypeBlue SMART LED KIT 30W 4200LM”を導入し、HIDバルブ相当の白色6000Kと4200ルーメンという光量アップを図った。

あわせてフォグランプもBi-color LEDバルブに変更。フォグランプスイッチでホワイト・イエローの切替えが可能となった。

またイロモノ改造としては、フロントエンブレムを変更してみた。
元々は販売チャネルのNetzマークが付けられているところ、北米版ブランドの“SCION”エンブレムに交換するとともに、エンブレムベース「ブラックホールLED」をインストールした。合わせ鏡を利用しており奥行きのある不思議な光が灯るのだ。

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車室内は、外から見て想像しているよりもかなり広い。

助手席シートの前後可動域が約30cmと大きく、2シーターとして使うのならばどんなに足を伸ばしてもコンソールには届かないほど。後ろにパッセンジャーを乗せるときはフルに前へスライドさせれば、リアシートでも足元に十分な余裕ができるし、助手席でも膝がコンソールに当たらないだけの空間が確保されている。
それも助手席前のコンソールボックスを廃したり、中のエアコンユニットを小型化してセンターコンソールに移設したりして足元空間を確保してあるiQ独自のコンパクト化技術のひとつだ。

ほかに空間を稼いでいるポイントは、シートバックの厚み。内部フレーム等で剛性を確保しつつ限りなく薄く設計しているのがわかるだろう。だが座り心地は悪くない。むしろ柔らかめで、ふわりと沈み込むくらいだ。
とはいうものの、後席はお世辞にも広い空間とは言い難く、特に運転席後ろの席はかなり厳しい。運転席を一番後ろまで下げた場合には、後席シートとの隙間はゼロ距離となる。
したがって、運転手の体格にもよるが、大人なら3人、プラス子供1人ならばなんとか、という程度だろう。それでも急な雨で最寄駅まで送りましょうか、なんてときには、我慢すれば大人4人でも違反にはならないのだから良しとすべし。

ドア面積は大きく、2ドアスポーツのソアラやセリカにも匹敵するほど。
車両側方の投影面積の大部分がドア開口部になるのではないだろうか・・・確かに、よく見るとホイールベース間のほぼ全てがドアとなっているではないか。それなのに旋回時等にもたわみのないカッチリとしたボディコントロールができているのは、そのぶんピラーの剛性が高く設計されているからだろう。
またドア開放角度も広いため、乗降はとてもしやすい。
4シーターとしてセッティングした場合のトランクスペースは、あまりの小ささに笑ってしまうほど。
リアハッチを開けたらすぐ後頭部(笑)。 なんと奥行わずか10cm!これではアタッシェケースくらいしか置けまい。
なので、普段使いにはリアシートを倒して荷室にしている。 年寄り子供がいない生活では、これで十分。

後席の狭さとは対照的に前席の居住性は優秀である。
そもそも1680mmの車幅があるため運転席と助手席の間にコンソールボックスを置けるほどで、肩が触れあうようなこともない。
カーナビ、オーディオ、エアコンなどの操作パネルはすべて中央部に集約され、ほかには余分な装備を置かないというシンプルさを追求したデザインとなっており、視覚的にもコンパクトさを感じさせない演出を醸し出している。

ただ、助手席を前にスライドした場合でも膝元のスペースを確保するため、ほとんどの車についているコンソールボックスですらオミットされている。おかげで車検証を入れるスペースが追いやられ、リアシート下の収納スペースに置くことになったのは、ちょっとだけ不便かも。(頻繁に出入れすることもないのだが、一瞬どこにしまったか忘れてしまうのが困る、程度なんだけど。)

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内装はデザイナーズ風のおしゃれな造形となっている。
Leather Packageでは、レッドステッチの本革巻ステアリングやシフトグリップ等、手触りの良いものにクラスアップしているので高級感も満点。ステアリングが非円型とされているのもiQならではで、ドライバーの膝元に狭さを感じさせないためだそうだ。

メインパネルはオレンジ色LEDを使用し、大型の速度計と右下の小ぶりな回転計はアナログメーターで、その左に距離計や燃費計等を選択可能なデジダルマルチディスプレイが配置されている。

カーナビ下の逆三角形部分はエアコンパネル。
その最下部にあるシガーソケットには、電圧計を兼ねたUSBソケットを差して使用している。
エンジンルームは、超過密状態。
軽自動車以上にメカが密集しているさまは、もはや芸術の域ではないだろうか。

エンジンレイアウトだけでなく、エンジンルームに飛び出すステアリングの奥行きを確保するためにデファレンシャルギアの向きを通常とは逆置きにしたり、ヘッドランプのバルブでさえiQ専用の特殊形状とするなど、コンパクト技術のすべてがここに集約されていると言って間違いない。

このエンジンルームの過酷なまでの集約度が、キャビン内の広い空間を生み出す原動力になっているのだ。
iQのネーミングは、Intelligence Quotient(知能指数=IQ)からだとか、Individuality(個性)・Intelligence(知性)・Innovation(革新)などを表す“i”と、Quality(品質)・Quest(探求)・Quaint(趣き)などを表す“Q”の組合せからだとも言われるが、従来にない新しい、知性的で唯一無二のプレミアムマイクロカーになることを祈願して名付けられたとされている。

誕生時こそ、iQはその独自性から注目を浴び、当初計画をはるかに上回る月間受注台数をマークするほどの出足を見せたが、軽自動車というコスト的な壁を超えることはままならず、2016年には約8年間の製造期間を終え、終売となってしまった。

総生産台数は31,333台。

これは、未来に向けたひとつの理想のカタチを掲げて誕生し、軽という現実に阻まれてその姿を消した、稀代の名車の物語である。
iQのエンブレム。130GはDIYで製作した。

iQ  130G Leather Package '12 諸元表
型式 DBA-NGJ10-BGXNG(P) ステアリング形式 電動パワーステアリング付ラック&ピニオン
車両重量 950kg サスペンション形式(前) マクファーソンストラット式コイルスプリング
車両総重量 1170kg サスペンション形式(後) トーションビーム式コイルスプリング
最小回転半径 3.9m ブレーキ形式(前後) ベンチレーテッドディスク/ディスク
全長×全幅×全高 3000×1680×1500mm タイヤサイズ(前) 175/60R16 専用アルミホイール
ホイールベース 2000mm タイヤサイズ(後) 175/60R16 専用アルミホイール
トレッド前/後 1475/1460mm 駆動方式 FF
最低地上高 135mm トランスミッション CVT 7速シーケンシャルシフトマチック
室内長×室内幅×室内高 1560×1515×1145mm 変速比(CVT) 2.386〜0.426
乗員定員 4名  後退 2.505
エンジン型式 1NR-FE 最終減速比 5.403
総排気量 1329cc 燃料タンク容量 32リットル
種類(給気方式) 直列4気筒DOHC (NA) 使用燃料 無鉛レギュラーガソリン
燃料供給装置 EFI VVT-i JC08モード燃費 20.8km/リットル
内径×行程 72.5mm×80.5mm 安全性能 9エアバッグ
圧縮比 11.5
最高出力 94ps(69kW)/6000rpm
最大トルク 12.0kg・m(118N・m)/4400rpm


T 愛きゅう!



20.08.25.up